一般的に、亡くなった方(被相続人)の相続財産に株式が含まれている場合、複数の相続人がその株式を分ける(遺産分割)方法として、例えば以下のような方法が考えられます。
①株式を各相続人に分けて取得する
②株式を相続人の1人が取得し、他の相続人は別の財産を取得したり、代償金の支払いを受ける
③株式を売却して、その代金を各相続人で分ける
もちろん、各相続人が話し合いで遺産分割方法を決められれば問題はありませんが、話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所の調停や審判によって遺産分割方法を決めることになります。
この点、同族会社である非公開会社について、「経営規模からすれば、経営の安定のためには、株式の分散を避けることが望ましい」として、会社の株式については相続人の1人に単独で取得させ、他の相続人に対して代償金を支払う方法によって分割することが適切である、と判断した審判例がありますのでご紹介いたします(東京高決平成26年3月20日・判例時報2244号21頁)。
この審判例は、相続によって非公開会社の経営に望ましくない者が参入することを防止するための会社法の規定(会社法174条)や、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」の規定などにも言及し、近年、より問題となっている中小企業の事業承継に配慮したもので、その判断過程は妥当なものと思われます。
なお、この審判例は、故人の持株割合は約10分の1程度という事案でしたが、個人の持株割合がより大きい場合(当該会社の実質的オーナーである場合など)には、上記のような要請はより強く働くことも考えられます。一方、この審判例では、株式全部を取得することとされた相続人が、当該会社の次期代表取締役となる予定であったこと、その相続人が他の相続人に対する十分な代償金支払能力を有していたこと、他の相続人がそれまで会社の経営にほとんど関わっていなかったこと等の事情もあります。こうした事情が異なれば、判断も異なりうるところではありますが、中小企業の株式の遺産分割に関して今後参考とされるべき審判例の1つであると考えられます。
当事務所では、中小企業の経営に関する相談、中小企業の株式の相続や遺産分割に関する相談等についてもお応えをしていますので、こうした問題にお悩みの方は是非お気軽にご連絡ください。
弁護士 太 田 竜